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【KOEOTO】田中英行

─ミキサーのお仕事だけでなく選曲もされるようになったんですね。

番町スタジオに小松亘弘さんという方がいらしてました。小松さんはテアトル・エコーに所属していらっしゃいまして、元々は役者さんだったんですね。それが役者よりも芝居の音響効果(SE)をやるようになって、外画のSEも手がけられてたんですね。それと同時に移転前の番町スタジオで音響演出もおやりになってたんです。小松さんは効果に対してはすごくうるさい方でしたね。
当時はスクリーンが1枚で、手前で役者さんたちが演技して、裏側で効果屋さんが同時に効果音を付けるんですよ。どちらかがとちると「ゴメン」と言い合いながら進行するんですが、その代わり同時にやるから速いんですね。今じゃ考えられないですけど、足音などの抜けている音を一回全部チェックして効果を付けるんです。効果屋さんがふたりで、片方がハイヒール、もう片方が革靴を履いて、アベックをやったりしてました。私はそういうのを見てるので、効果を付けるのが大好きなんです。今のCDドラマでも効果が抜けてるときはスタジオに入ってポンポンと作っちゃいます。スタジオの若手には「よくそんなことできますね」と呆れられてますけど。

本田保則さん

ミキサーとして東映の仕事をしている時に、東映のスタジオに行ったら、その小松さんが『一休さん』の音響演出をされていて、「ちょっと覗いていけよ」と言われて見学させてもらってたんです。するとその現場についていた選曲の人のハサミ使いが遅いんですよ。それで小松さんが、私に「変わってくれ」とおっしゃいまして。それから『一休さん』は終わりまで選曲をやらせてもらいました。
選曲の時は、曲が100曲あったら100曲全部をアタマに入れて、その画に合わせて「音楽ラインがこうだよ」って言われたらそれに合う曲を持っていくんです。6ミリテープで2台のプレーヤーから交互に曲を出して、それを編集して長さをピタッと合わせるんですね。
現在のデジタルのものは作業が速いんです。音のクロスとかきれいに簡単にできますしね。でも昔は音をクロスさせようようとしても道具はハサミしかありませんでしたからね。テープをながーく斜めに切って、うまくヘッドを通るのを長くするということをやっていました。つなぐ曲のテープを10センチくらいに、斜めにスーっと切ってそれをつなぎあわせる。そうすると残ってる音と次に来る音がうまくつながるんです。真横に切ってつなぐと、そのつないだところでブツっと音がとびますから。今はMacとかでパパッとできちゃうものなんですけどね。
アニメーションの音楽を作るのには、田中公平さんなどの若い作曲家が来ていました。まだアニメーションの音楽をやったことがない人が多くいたので、その人たちにアニメーションの音楽の合わせ方というか、やり方を教えました。そういったこともあり、いまも『北斗の拳』の再放送を見ると選曲として私の名前が出ているようです。

─音響監督へと転身されたきっかけは。

『赤毛のアン』などの、日本アニメーションの作品のミキサーをやっていたときに「(音声の)演出もやってみないか」と言われて演出を始めたんです。『新みつばちマーヤの冒険』という作品が音響監督としての最初の仕事でした。
是が非でも演出がやりたいと思っていたわけではなかったんですけど、その後もポンポンと仕事をいただいたものですから、自分なりの音響監督としてのスタイルを作って行くことになりました。何よりも大切にしたのは、先にしっかり画を観て、役者さんにきちんと伝えるということですね。
昔はアニメでもみんな集まってから一回リハーサルをやります。その前にこちらは全部調べておいて、「ここにブレスがあるよ」というような指摘をするんです。そうすると大抵その一回のリハーサルだけで本番も合うんですね。ですから2時間から2時間半ぐらいでアニメーションを1本録ってました。普通は3時間以上かかっていましたから、速いというのは随分とセールスポイントになったと思います。
それに時代も良かったのでしょう、アニメを専門にする音響監督が少なかったんですね。当時はまだ5〜6人しかいませんでしたから、1作終わると次の放送の作品が必ず来ていたので、営業をしなくても良かったんです。
なかでもキングレコードさんが可愛がってくださいました。大月俊倫さんというプロデューサーがいらしたんですけど、その方が「こんなヘンな監督がいるんだけど大丈夫?」なんて言って、次から次へ作品を持って来てくれてたんです。 『新世紀エヴァンゲリオン』もそうです。「庵野秀明っていう監督がいるんだけど」という感じで。「庵野さんと一回いっしょに仕事してしまえば、もう怖いものはないよ」なんて言われながらやらせていただきました(笑)。

田中英行さん

やっぱりアニメーションの監督は、それぞれ個性が際立ってるんですよ。ゼロから世界を作る仕事というものは、やっぱりその個性が大切なのでしょうね。当然、画だけでなく声のイメージも持っているんですけど、その伝え方もそれぞれ個性的なんですね。まあ癖と言ってもいいかもしれません。ですからその癖を覚えるというのが大切です。監督のイメージをいち早く理解して、多くの出演者がそのイメージを共有できるようにきちんと伝えることが、音響監督の仕事の第一歩と言えるかもしれません。演出以前のところで、まずその監督を理解する。それができれば、アフレコの現場というのは案外速く進みます。
私にとって演出の先生は、グロービジョンで吹替えの演出もされていた左近允洋さんなんです。左近允さんの良い所だけ盗みましたね(笑)。アニメーションでは、先ほどもお名前を出しましたけど、小松亘弘さんですね。
左近允さんの仕事は速くて、「口なんか合わなくてもいい、流れでいこう」という人でした。良いこと言うなあと思って、ああ私もそうしようと思いました。
当時はチームワークも良かったんですね。脚本を書く人も、流行っている漫才の台詞とかをボンボン入れてくるんです。だから役者もみんなノってくるんですよ。

NEWS
田中英行 田中英行
(たなか ひでゆき)

1942年生まれ、北海道出身。 アニメーション音響監督。 株式会社 AUDIO・タナカ 代表取締役社長。当連盟名誉会員。 1964年、番町スタジオにアルバイトで入り、1966年入社。選曲・ミキサーを経て音響監督に。1990年 株式会社 AUDIO・タナカを設立。以後、音響監督として数多くのアニメーションを手掛ける。また1988年よりシグマ・セブンで教鞭をとり、多くの役者を育てる。

○主な作品○
【アニメーション】
『新世紀エヴァンゲリオン』『少女革命ウテナ』『爆走兄弟レッツ&ゴー』『機動戦艦ナデシコ』『アキハバラ電脳組』『セイバーマリオネット』『怪傑蒸気探偵団』『スーパービーダマン』『ボーイズビー』『ラブひな』 他多数。

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